インハウスな日々

ある企業内弁護士の備忘録です

丸島 儀一『キヤノン特許部隊』(2002年、光文社新書)

2021年、27冊目。

 

少し古い本であり、「飲み屋で聞く上司の武勇伝」の趣きもないとはいえないが、良い本だった。キヤノン知財部のノンフィクションだが、法務が読んでも非常に面白い。

 

例えば、事業部門と議論する重要性を説く場面。

要するに本当に事業のためになるかならないのかを考えて、一時のことではなく先のことを考えて事態を見ないと誤るのです。 ところが事業部の人は、そのとき欲しいものは欲しい。だから契約書を作ってくれ、とくるわけです。しかしそのとき、将来的な技術動向や会社の動きを見て、こういう問題が発生するぞということを特許担当者が指摘できるかどうかが重要です。

さらりと書かれているが、実践するのはなかなか骨が折れるはずである。

 

ゼロックスとの攻防、特許戦略をどのように考え実践するか、海外での契約交渉、紛争……等々淡々とした文章で描かれているが、それが逆に想像力を掻き立てる。法務、知財の実務に関わる方におすすめの一冊。

 

以下の部分が、特に印象深い。

特許法に精通しているとか、技術に精通しているということはもちろん大事なことですが、それよりも企業人ならば、その企業が行っている事業にとってどのように有利な展開ができるか、(中略)そういった発想が大切なのだと思います。