インハウスな日々

ある企業内弁護士の備忘録です

契約書修正コメントの実務

企業と企業が契約内容について交渉する場合、いきなり法務同士が顔を突き合わせることはまずありません。
大抵の場合は契約書本文に修正履歴をつけて修正し、Word(一太郎を使っている法務部は皆無であろう)のコメント機能か【】を使って修正の理由や趣旨を説明することになるでしょう。
ゴールデンウィークという時間を活かし?その類型化を試みました。

1.法律(民法、商法など)の規定に引き付けて考える
 「民法○条の原則通り、〜とさせてください」というようなパターン。結構よく見る(私見)。
 当該規定が強行規定でない限りは異なる条件を設けることはなんの問題もないのであり、なぜ今回の契約で民法の規定通りの条件とすることが適切なのかを示していないと理由になっていないと思います。*1*2
 が、わざわざ聞き直すのも面倒になってしまう不思議な力をもっている。

類似例:〇〇ガイドラインの条項例と同様、〜とさせてください

2.実態に合わせる形で考える
 「実際〇〇というふうに取引するんだから、契約書の条文もそうしましょ」というパターン。
 大抵同意が取れるのだけれど、ごく稀にあるのは「法務がうるさいから、契約書上は△△としてくれ。運用は〇〇でいいけど」(大意)という反応が相手方の担当者から来るパターン。
 本当にそうなのか、法務がそういえと言ってるのか…対応に困る。

3.過去の例に習いましょう
「過去の同種の契約で〜としているので、〜としてください」というパターン。
なぜ、過去と同様に扱うべきかまで説明できれば反論しづらいと予想されるが、「当社の方針が変わりました」と、アレはアレとして回答されることもある。

4.公平の観点から…
両当事者で負うリスクのバランスを取りましょう、という提案。一方(自社)にだけ不利になってる契約書にはとりあえずこう返してみます。
いくら会社同士のパワーバランスの問題があっても、面と向かって「うちは客ですよ」といってくるところは少ないため、なんやかんやの落としどころになること多し。
文言上公平だからといって、実態もそういえるとは限らないので注意が必要。

5.一般的と思います
「〜とするのが一般的と思います」
かっぱちゃん先生(@kappa0909)よりご指摘いただきました。たしかに何度かみたことありました(笑)
形式的な部分なら好きにしてくださいって感じですが、この理由付で実質的な内容を変えられると「は?」以外の感想がありません……。
結局、実質的な変更理由を聞く羽目になるので二度手間にしかならないです。

6.修正できませーん!
「修正不可です」
受け入れる or 契約結ばないの二択を迫ってくるパターン。
実態としては、以下のパターンが考えられる。
①修正するとなると法務部門に回さなければいけないので「修正不可」というテイにしているパターン
②本当に内規などで修正不可のパターン(ああいう関係のところとか)
③自社の担当者が嘘を(略)

※まや先生、かっぱちゃん先生にいただいたコメントをもとに、追記・修正しました(5/5)

*1:この部分について、まや先生(@maahyang)さんよりご指摘いただきましたので、紹介させていただきます。ありがとうございます!以下、ツイートより引用。 ・法律と異なる内容の合意ができることは、その内容で合意しなければならない理由にはならず、法律を修正する必要性について別途説明を要すると考えます。 ・原契約で法律と異なる内容で合意している場合は、合意済みのその内容をベースとしてよいと思います。

*2:正直、原案の時点で民法や商法の規定とはずれていることが多く、そこを出発点として交渉していくことになるので、あまり気にしたことはありませんでした。ただ、そもそも原案の時点で民法の規定と違うのであればその理由を聞いてみるべきですね。