インハウスな日々

ある企業内弁護士の備忘録です

ミステリのルール、訴訟のルール

弁護士で作家の五十嵐律人氏が以下のインタビューでコメントされていました。

弁護士作家・五十嵐律人氏「ミステリーと法律論は似てますよね」|NEWSポストセブン

伏線や謎解きもなく真犯人が登場しても、読者は納得しないと思います。その結末に至るのにいかに魅力的な謎や伏線を鏤め、フェアに事を運ぶかという点は、法律論とも似てますよね。

なるほど。

当事者(読者)がフェアに感じるの重要性は、両者の共通点と感じます。そこで、ミステリの「ルール」である「ヴァン・ダインの20則」のうち、いくつかをピックアップして比べてみましょう。

数字は20則の番号を指しています。

 

1.事件の謎を解く手がかりは、すべて明白に記述されていなくてはならない

15.事件の真相を説く手がかりは、最後の章で探偵が犯人を指摘する前に、作者がスポーツマンシップと誠実さをもって、全て読者に提示しておかなければならない

「裁判所は当事者によって主張されていない主要事実を判決の基礎とすることができない」という弁論主義の第1テーゼに通じるものがあります。

訴訟における探偵役である裁判官がどこかから情報を仕入れても当事者は納得できません。

 

3.不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない

16.余計な情景描写や、脇道に逸れた文学的な饒舌は省くべきである

助長な準備書面といいますか、事件と関係のない事情をツラツラ述べても「どういうご趣旨で?」となるのがオチです。

 

4.探偵自身、あるいは捜査員の一人が突然犯人に急変してはいけない

裁判官が犯人(あるいは、事件の当事者)だと、判決の公平性が疑われます。

それなら最初から探偵になってもらいませんよ、ということで忌避したいところですね。

 

5.論理的な推理によって犯人を決定しなければならない。
 偶然や暗合、動機のない自供によって事件を解決してはいけない。

ロジカルでない事実認定はやめてほしいですよね。お願いします。

 

8.占いや心霊術、読心術などで犯罪の真相を告げてはならない。

黒澤明羅生門」じゃあるまいし……訴訟で霊的なものはちょっとNGです。

「被害者の霊を降ろして聞いてみました」で誰が納得できるでしょうか?

 

とまあ、ここまで書いたところで飽きたのですが*1、「どうやらフェアなようだ」と当事者が感じ得る建付けがあればそれでOKという感じなところが、似てるかなあと思う次第でした。

 

 

 

*1:他の項目が気になる方はお調べください。