”人を熱烈に動かそうと思ったら”
*この記事は、裏法務系Advent Calender 2022の10日目のエントリーです。
*さむ(とむやむ)さんからバトンをつないでいただきました。
昨年は「表」の方で契約書審査依頼の「丸投げ」について書いてみました。今年はどうしよっかな~と思っている間に「表」が埋まり、まあせっかくの機会だから、ということで「裏」に登録させていただきました。テーマは法務部門による社内向け教育です。
1.社内向け教育やりたいか?
法務に臨んで配属された若手であっても、「社内向け教育やりたいです!」といって手を挙げる人は多分いないし、そんな人は管理職からしても奇特に映るのではないだろうか。
法務部の業務内容は会社によってさまざまだが、M&Áや契約への対応業務であったり訴訟対応業務がパッと目につきやすいところ。他にも総会対応などの機関法務や、コンプライアンス対応、海外のグループ会社がらみの業務の業務管理等々…様々法務の仕事はあるけれど、「対応」という言葉がしっくりくる業務が多い気がする。
そう、法務が携わる業務の多くは、他部門との協働であり、かつ、他部門が主導権を持っていることが多い。契約対応がその最たるもんで、「こういう会社とこういう条件で契約を結びたい*1」という事業部門の希望をお手伝いすることが業務になる。すすむもやめるも、リスクをとるもとらないも、最終判断するのは事業部門だろう。
その点、社内向け教育は違う。事業部門からリクエストを受けて実施する場合もあるだろうし、何らかの必要に迫られて実施することもあるだろう。しかし、対象部署・実施内容もろもろすべて法務が決めて良い。普段、事業部門の主体性がないと愚痴を言っている皆々様にはとても貴重な機会であり、想いのたけをぶつけるチャンス!!…とはおもっていない法務人員が多いのは気のせいだろうか?個人的には、もったいなく感じる。
今日は、社内向け教育の隠された魅力と実施あたって注意していることを紹介したい。
2.社内向け教育の効果
(1)様々なリスク低減
社内向け教育を行うことにより、法的に問題にある行為が例えばどのようなものなのか、どういう場合には法務に相談した方が良いのか、周知を図ることが出来る。この効果をはかることはなかなか難しいが、長い目で見れば、インシデントの発生リスクを抑えることにつながる。
モグラたたきのように、出てきたモグラを都度叩く対応ももちろん大切なのだが、社内向け教育はそもそもモグラを駆除するチャンスである。毎年問題は起こるものだけれど、例えば重点的に社内向け教育を行ったトピックスについて、翌年はめっきり案件数が減った…ということも実際に起きる。なんとなく、やりがいを感じる瞬間である。
教育で従業員の普段の行動を変革することが出来れば、リスクは減るのだ。
(2)隠された課題の発掘
教育を行うことにより、「実はこんなことがあるんだけど…」というような相談が後で舞い込むことがある。法務にとっては、事業部門の業務すべてに目を光らせることは不可能だ。こういうことを言ってくれる人が各部署に少しずつでもいれば、問題の目が出ないうちに対処する機会にもなる。「今まで当たり前にやってきた業務だけど、コンプラ的にやばい?」という感覚を持ってもらえれば大成功だろう。
「めんどくせぇな、仕事増えるのかよ」って?仕事していない管理部門なんていらない人たちなのでは・・?
(3)顔と名前が売れる
法務の○○がこの件で教育してたから、コイツに聞いてみよう、という機会は間違いなく増える。社内顧客を増やし、社内で顔を売るチャンスにつながる。社内で顔を売るとどんないいことがあるか?それはまた別の機会に誰かまとめてくださるでしょう。
3.社内向け教育時に意識していること
(1)”社内実務”に合わせた教育内容にする
より響く教育にするためには、社内の実務に目線を併せるのが効果的だと思う。例えば、法改正があり、顧客対応時に注意する点が増えたとする。このような場合に、「こういう法改正がありました」とアナウンスするだけだと、法規範へのあてはめ(社内業務のどのような場面で、どのような行為が問題となり得るか)を事業部門に委ねることになる。経験のある人ならともかく、担当業務の範囲が限られている若手にはなかなか伝わりにくい。
そこで、(時間が許すのであれば)事前に部門長クラスにヒアリングをして、どのように実務を行っているかを確認する。そのうえで、具体的な実務の問題点を整理し教育内容に加えれば、若手が聞いてもわかりやすい社内教育資料が出来上がる。
加えて、ヒアリング時に「どこどこが問題だから、注意喚起を図りたい、協力してもらえないか」という形で部門長を巻き込んでしまえば、「部長が法務に頼んで教育してもらうから、お前らちゃんと聞いとけよ」という位置づけで教育を行うことが出来る*2。
実は、この記事のタイトル「人を熱烈に動かそうと思ったら」は「相手の言い分を熱心に聞かなければならない」と続く*3。教育の受け手に普段の行動を変えてもらうためには、受け手のことを知らなければならない。
(2)過去の”社内事件”を盛り込む
具体的なイメージを持ってもらう方策として、社外の事例(新聞報道があった事案や、インパクトの大きい事案等)を盛り込むことも大切だが、可能であれば、社内の事例を盛り込みたい。
社外の事例と比べると数字のインパクトが小さいことも多いだろうが、受講者へのインパクトは大きい。●●部はこの件で訴訟にまでなって大変だった、とかそういう話は法務が意図しなくても広がってくれるし、「じゃあ気を付けないといけないな」という当事者意識を持って話を聞いてもらいやすくなる。
(3)お土産を持って帰ってもらう
忙しい事業部門の人間を集めて、1時間しゃべったけど何の記憶にも残らなかった、良い睡眠時間になった…では目も当てられない。
そのため、最低限覚えて帰ってもらいたいこと、明日から今までの業務を変えてほしい、そのポイントを伝える。「え~、ま、正直明日には今日お話ししたことかなり忘れておられると思うんですけど(作り笑い)、ここ、これだけは覚えて帰ってください。上司に法務がなにはなしてたか聞かれたら、「○○はやるな」って言ってました!って返してくださいね~。」
法務がインプットする内容は、社内手続きの手順を周知するための説明会のようなものと異なり、マニュアル化が難しいことが多い。何かを防止するために「こういうことに気を付けましょう」とは言えても、「こうしていればOKです」とはなかなか言いにくい。
アンテナを張ってもらう意味で、ある程度抽象的に「こういう場面に出くわしたら法務に聞こう」と思ってもらえるポイントだけでも覚えて帰ってもらえるようにしたい。
(4)開催形式
社内向けに教育を行うといっても、会議室をつかった対面形式での実施、ウェブ会議システムを使っての実施、E-learningシステムを使っての実施等様々考えられる。また、一方的に話すスタイル、ゼミのように議論するスタイル、昔を思い出すソクラテススタイルなど、講義の形もいろいろな手段がとれる。
これが良いということはなく、その教育を行う目的に鑑みて、適切な方法を選択するべきだろう。基本的には、手間をかければかけるほど、印象に残しやすくなると思われる。
4.終わりに
以上、社内向け教育について考えてみましたやってみると予想外の質問が飛んできて焦ったり、法務の中心的な業務を圧迫したりアレなことも多いです。加えて、効果が見えにくかったり、持って行き方を間違えて反発を招いたり‥。
でも、いざ教育するとなると自分の勉強にもなるし、社内のことをいろいろ知れたり、他部署とのつながりが出来たりして上に書いた以外にも、後々につながる何かが得られたりするものだと感じています。
なんだかんだ、主体的に法務が動くことができる、結構やりがいのある仕事かなぁと思います。
明日は保戸山理恵さんです!
※昨年の記事はこちらです。
NHKスペシャル取材班編著『日本人はなぜ戦争へと向かったのか メディアと民衆・指導者編』(新潮文庫、2015年)
米澤穂信『巴里マカロンの謎』(創元推理文庫、2020年)
米澤穂信『巴里マカロンの謎』(創元推理文庫、2020年)
小市民シリーズ久々の新作らしい。
前作、「秋期限定栗きんとん事件」が出版されたのはつい昨日のことのようで、時の流れの速さがなんともアレ。
内容自体は、シリーズファンでなければあえて手を出す必要もないように思うなどしました。
2022年、9冊目。
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似鳥鶏『叙述トリック短編集』(2021年、講談社タイガ)
2022年、7冊目。
「叙述トリックモノ」と謳った短編集で、事前にトリックをオープンにしている点で、なかなかチャレンジングな作品(某叙述モノしか書かない作家を思い出すなど)。
全体として作者の目論見は成功しているように思うので、満足度の高い作品だった。
吉田 悠軌『禁足地巡礼』(2018年、扶桑社新書)
吉田 悠軌『禁足地巡礼』(2018年、扶桑社新書)
https://t.co/R39reU6tv1
2022年、6冊目。
信仰的な理由や心霊的な理由で足を踏み入れることが禁止される場所、「禁足地」に関する考察本。
「巡礼」とあるが、禁足地についてのルポはメインではなく、それぞれの禁足地がなぜ禁足地になったか、背景から